覚えているだろうか、
1982年のTVドラマ「淋しいのはお前だけじゃない」。
第1回の「向田邦子賞」を受賞した伝説の名作ドラマである。
それが、舞台になって戻ってきた。

TBSの高視聴率TVドラマ「淋しいのはお前だけじゃない」は視聴者から高い支持を受け、1982年度の「テレビ大賞」、そして第1回「向田邦子賞」を受賞、当時このドラマに関わったスタッフ、キャストのみならずTV、映画、演劇の関係者には、今なお強い思い入れがあるという。
市川森一が原作・脚本を手掛けたこの物語は、自らも借金に苦しむうだつの上がらないサラ金の取り立て屋が、同じように借金の返済に苦しむ大衆演劇の人たちと一座を立ち上げ、その興業収益で悪徳高利貸しに対抗しようという人情喜劇。当時は主演の西田敏行をはじめ泉ピン子、木の実ナナ、それに大衆演劇から颯爽と現れた梅沢富美男など、個性的な出演者たちが劇中劇の座員を演じて話題を呼び、「サラ金」など、当時抱える問題を風刺した社会派作品として大きな人気を集めた。

今回の公演で主演するのは、自らもこの作品の熱烈なファンと自認する歌舞伎界の若手ホープ、中村獅童。「当時はまだ子どもでしたが、家族が見ていたのでよく一緒に見ていました。演劇界ではこの作品を好きな人が多くて、関係者やスタッフの中でもよく話題になっています。この舞台の出演依頼がきたときはのりのりで、やりがいがあるとわくわくしました」と笑顔いっぱい。

というのも、中村獅童には大衆演劇に対して格別の思い入れがあるからだ。
今でこそ新年の浅草を彩る恒例行事となっている「新春浅草歌舞伎」だが、これを始めた2004年当時はなかなか席が埋まらず、大いに苦労したという。「このとき浅草の商店街の方々には本当にお世話になりました。お客様を呼ぶために一緒になって盛り上げてくれて、とても助けていただいたのです」と大衆演劇さながらの下町人情に感謝の念を抱く獅童。今ではチケットを取るのも難しくなるほどの人気だが「下町には人と人とが接することで生まれる人情が、今でも暮しのなかに生きている」とその有り難みを噛み締める。

市川森一の原作を得て、今回の舞台の脚本を手掛けるのは「東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~」(2007年)や「世界の中心で、愛をさけぶ」(2005年)などで知られる蓬莱竜太。人が生きていくとはどういうことかをリアルに表現する作風で高い評価を得ている。
演出はマキノ ノゾミ。NHK朝の連続テレビ小説「まんてん」(2002年)の脚本を手掛けたことでも知られる多才な演劇人。俳優、劇作、脚本、演出と、多方面で活躍しているが、数多くの受賞歴でわかるようにいずれも水準が高い。

大衆演劇「花村月之丞一座」を率いる中村獅童に対して、そのしたたかな妻役を演じるのが長谷川京子。モデル出身の女優で、映画「桜田門外ノ変」(2010年)や「愛の流刑地」(2007年)で知られる。さらに、女形をやらせたら天下一品の大衆演劇スターを演じるのが平岡祐太。2002年の「JUNONスーパーボーイコンテスト」でグランプリを受賞したイケメン俳優で、美しい女形ぶりが今から期待される。
その母親の座長役を演じるのが2009年にバレリーナを引退して女優に転身した草刈民代。映画「Shall we ダンス?」(1996年)やNHK大河ドラマ「竜馬伝」(2010年)で見られるように、その演技力は出色。"芸に貪欲でプライドが高く、座員にも平気で嘘をつくしたたかな女"をどう演じるか、今から楽しみだ。その他、注目の個性派俳優が舞台に登場する。

さて、この舞台の最大の見どころは、テレビでもそうだったように、現実のドラマと同時進行しながら組み込まれた大衆演劇の"劇中劇"。
「劇場に足を運ばなければならない演劇は、究極のアナログ。それは現代劇も歌舞伎も大衆演劇も変わらない。ただ、大衆演劇は庶民の暮しのなかから生まれる切実な"人情"を映し出している。これは人と人とがかかわり合うことでしか生まれてこない。その点を大切にしながら、人間臭さを出せたらいいなと思います」と獅童。届いたばかりの台本を手に、この舞台に賭ける熱い意気込みが伝わってくる。

もう一つ、役者・中村獅童には歌舞伎の名門「萬屋」を背負う若手のホープとしての顔がある。むしろこちらが原点か。8歳で歌舞伎座の初舞台を踏み、1981年に二代目中村獅童を襲名。祖父は名女形三代目中村時蔵、叔父に萬屋錦之助や中村嘉葎雄、従兄弟に五代目中村歌六、三代目中村歌昇、五代目中村時蔵、二代目中村錦之助と、萬屋一門がキラ星のごとく居並ぶ。中村勘三郎一門(中村屋)や松本幸四郎一門(高麗屋)とも縁がつながっている。「歌舞伎は私の揺りかごであり、帰るところ。役者としては、どのようなジャンルの、どのような役でもやれなければならないと思っていますが、あくまでも私は歌舞伎役者」と獅童は言う。

そう言わせるのも「歌舞伎には日本の伝統美と日本人を日本人たらしめている心情がいっぱい詰まっている」から。そのことは海外の映画「硫黄島からの手紙」(2006年)や「レッドクリフPart1、Part2」(2008~2009年)に出演してみて、さらに強く意識したという。「海外に出ると、まず聞かれるのが日本の文化について。そういう意味では歌舞伎の世界にいられて本当によかった。歌舞伎を通じて多くの人に日本の美を伝えていきたい」と、歌舞伎に対する情熱はひとしお。最近は「吉野山」の忠信など、坂東玉三郎とのコンビに注目が寄せられている。
歌舞伎をホームグラウンドに、今回の舞台「淋しいのはお前だけじゃない」で、さらに一回り大きくなった中村獅童を見られそうだ。
(Text/宮崎 陽子)
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1972年9月14日生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部演劇学科出身。屋号は萬屋(よろずや)。8歳の時に歌舞伎座にて初舞台を踏み、81年「妹背山婦女庭訓」で二代目中村獅童襲名。映画「ピンポン」(2002年)のドラゴン役で一躍、脚光を浴び、日本アカデミー賞をはじめゴールデン・アロー賞、ブルーリボン賞、日本映画批評家大賞、毎日映画コンクールの各新人賞など5冠を受賞。映画「阿修羅のごとく」(2004年)で日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。映画では「硫黄島からの手紙」(2006年)、「レッドクリフ」(2008年)など国内外を問わず話題作に出演しており、歌舞伎の枠を超えて活動は世界に広がっている。8月27日には映画「日輪の遺産」が公開される。 |

| ◇東京公演: | |
| 日時/2011年6月17日(金)~6月26日(日) | |
| 会場/赤坂ACTシアター | |
| チケット/ |
平日S席8,500円、A席6,800円 土日S席9,500円、A席7,800円 ※全席指定・税込・未就学児童入場不可 |
| チケット取り扱い/ | e+(イープラス) |
| ◇名古屋公演: | 2011年7月1日(金)~7月3日(日)御園座 |
| ◇兵庫公演: | 2011年7月6日(水)~7月7日(木)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール |
| ◇新潟公演: | 2011年7月9日(土)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場 |
| ◆スタッフ | |
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原作/市川森一 脚本/蓬莱竜太 演出/マキノ ノゾミ |
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| ◆キャスト | |
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中村獅童/長谷川京子/平岡祐太 /小松和重 大川良太郎 奥田達士 佐々木喜英 /藤吉久美子/草刈民代 |
◆企画・制作/TBS |

Tel. 0570-00-3337(10:00~19:00)
公式サイト:http://www.sabioma.jp/