日本酒は歌舞伎や禅と同様、
世界に誇る大切な日本の文化。
越後を代表する蔵元「菊水」は、
独自のSAKE哲学で新たな食文化に挑戦する。

菊水酒造株式会社の代表取締役・高澤 大介氏は、実にスマート。酒造りの現状や歴史を説明するのに、分かりやすいマーケティング用語を織り交ぜながら語る。蔵元のご主人というより、近代的な都会の経営者そのもの。
それもそのはず、高澤氏は菊水酒造の五代目でありながら「お客さまを知りたい」と大学卒業後、株式会社伊勢丹に入社、3年ほど新宿伊勢丹で "お買い場"を経験している。最後の半年は新潟伊勢丹の立ち上げにも参加、徹底した「お客さま視点」を鍛え上げているのだ。

高澤氏は百貨店での経験から「丁寧な酒造りや一流の味を求めるのは、蔵元としては当たり前。 日本酒の楽しさや奥深さを、食文化として伝えていかなくてはいけない」と言う。そのために「節五郎蔵(せつごろうぐら)」という、初代の名を冠した酒蔵を併設した「菊水日本酒文化研究所」を立ち上げている。酒の味を研究するだけでなく、酒器や食器などの食卓文化、お酒と料理との関係、季節やお祭りでのお酒の役割など、様々な角度から日本酒の魅力を研究している。「酒道 ~酒席歳時記~」(國府田 宏行著、菊水日本酒文化研究所刊)などはその成果の一つだ。

また、菊水は洋梨や梅を使った、リキュールのような口当たりの新しい日本酒を開発する一方、しぼりたての生原酒「ふなぐち菊水一番しぼり」や新潟ならではの淡麗辛口酒「菊水の辛口」など、長年愛されている味も大切にしている。それは、品質の向上が自己満足ではなく、お客さまの喜びに繋がらなくてはならないと考えているから。
その考えを実行するため「菊水日本酒文化研究所」では様々な資料や文献をひもとき、日本古来のお酒のシーンを再現している。たとえば、昔のお花見の料理を調べ、地元の料亭に再現してもらうことなどだ。そうすることで「何が豊かさの源泉だったのか、人はお酒に何を求めていたのか」を知ることができるという。

「日本酒のある生活が豊かに創造できなければ、産業としても文化としても成長しているとは言えない」と高澤氏。したがって酒造りは一言で言えば「お客さまの研究」であり「お客さまとの究極のコミュニケーション」だという。
胸元に光るバッジが気になって尋ねてみたところ「季節ごとに"和"をコンセプトにデザインしてもらっている」とのこと。デザインは「ドリームズ・カム・トゥルー」のステージ衣装などで知られる服飾デザイナーのKEITA MARUYAMA(丸山敬太)氏。伊勢丹時代の同期である藤巻幸夫氏の紹介で実現したそうだ。「良いセンス、良いモノなら、すべて良いコトに繋がると思う」と、あくまでお客さまを楽しませようとする姿勢が一貫している。

取材当日、現地で比較的大きな地震があり、今回の「東日本大震災」についても伺ってみた。「やはり思いを馳せてしまうのは東北の蔵元さんのこと。酒造りはただのビジネスではなく、地元に根差した文化的な仕事。美味しいお水やお米などの素材を育ててくれる環境、そして何より、地元の人たちに好まれる味が失われてしまうのは辛い……。何とか頑張ってほしい」と励ます。

「実は私たちも、この建物を竣工した年の2004年10月23日に、新潟県中越地震(M6.8、震源の深さ13キロの直下型地震)を経験しています。地元に必要とされ、多くの皆さまに愛されるお酒を造り続けることが使命だと思って努力してきました。同じ蔵元、同じ日本人として、できることは惜しみません。一日も早く笑顔が戻ることを願うばかりです」と力強く語ってくれた。

菊水酒造は「酒造り」という仕事を通してお客さまを見つめ、お酒そのものの研究から、お酒のある豊かな食文化へ、その守備範囲を大きく広げようとしている。そこには、日本酒の新しい可能性に挑戦しつづける果敢な姿が見て取れる。時代とともに、お客さまとともに、食の新たな可能性とともに歩む、進取の気性に富む蔵元でもあった。
(Text & Photographs/飯田 健太郎)

〒957-0011 新潟県新発田市島潟750番地
Tel.0120−23−0101
※月~金曜日の10:00~17:00(祝祭日・お盆・年始等を除く)
URL :http://www.kikusui-sake.com/

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