「根付」は日本が誇る"手のひらに乗る"芸術。
京都・壬生(みぶ)に唯一現存する武家屋敷を改装した根付専門の美術館で
年4回、"木下コレクション"が一般に公開されている。


 日本は「違いがわかる」国

 日本の上質な文化を知る外国人から見ると、日本人はよほど繊細な美意識を持つ民族に見えるようだ。多くの人が俳句に親しんでいるさまは、まるで"詩人の国"だそうで、「これほど質の高い料理屋さんが国中にあふれている国も珍しい」と絶賛する。お茶にお料理にお花に着物……日本文化は衣食住遊のすみずみにまで美意識が行き渡り、しかもそれが「庶民にまで浸透している」というわけだ。


 「江戸文化」を凝縮した根付

 そのルーツをたどっていくと、元禄時代をピークに庶民が暮らしを楽しんだ「江戸文化」に行き着きそうだ。成金趣味を野暮と心得ながら、なりふりかまわず生きることへのためらいと、それを見せないようにする「洗練」。成功や名誉を追うことに対する「含羞」があり、決して生きやすくはなかった時代に「粋に生きてみせよう」とするいさぎよさ。そんな「江戸文化」の片鱗を見せてくれるのが歌舞伎であり、根付の世界なのではなかろうか。


 根付は着物の必需品

 着物にはポケットがない。江戸の人びとは財布や懐紙など、ちょっとしたものを携帯するときは"ふところ"にしまった。しかし、印籠や煙草入れ、胴乱(元は弾薬入れ、後にものを入れる袋)など、持ち重りのするものは帯にはさんでぶら下げていた。根付はその「提げもの」が落ちないようにするための「留め具」である。ちなみに、印籠は文字通りに解釈すれば「印章入れ」ということになるが、水戸黄門ならいざ知らず、庶民はもっぱら「薬」を入れて持ち歩いた。平均寿命がわずか50歳といわれた当時、旅の途中で食中(あた)りにでもなったら、もうそれだけで命は助からなかったろう。着物を着るかぎり、帯に提げるものを留めておく根付けは欠かせなかったと思われる。


 掌の中の小宇宙

 根付の特徴は「留め具」であるため、必ずひもを通すための穴が開いていること。さらに、必要なときは帯の内側をするりと通り抜けなくてはならないので、できるだけ丸みを帯びたものが好ましい。大きさは手のひらに収まるほどのもので、だいたい4センチほど。さらに、根付は手にとって「いじる」道具なので360度、どこから見ても形になっていなくてはならない。そこが「正面」のある置物の彫刻とは根本的に違うところだ。
 根付は掌(たなごころ)の中でなじまれ、慈しまれ、間近に眺められるせいか、道具でありながら、どこか道具を超えた小さな宇宙を感じさせるところがある。


 根付に凝った江戸庶民

 材料は軽くて丈夫で彫刻がしやすく、しかも帯や着物を傷めない象牙や木材、ときには琥珀(こはく)などが選ばれた。木材は黄楊(つげ)や黒檀が多く、紫檀や一位、竹なども使われている。
 根付の中には、れっきとした彫刻作品でありながら、どこか軽妙洒脱でおかしみを誘うものがある。日常的に「使われる」ことを意識して、飽きさせないように考えたせいかとも思う。江戸の人々は「芸術」などとことさらに意識することなく、愛らしく、かつ癒されるものを特に好んだようだ。きっと「粋だね」などと言い合いながら、遊び心たっぷりに巧緻な技を楽しんだのだろう。


 武家屋敷を改装した美術館

 その根付に魅せられた収集家、木下宗昭氏のコレクションを見られるのが「京都 清宗(せいしゅう)根付館」。新撰組が駐屯したことで知られる京都・壬生(みぶ)に残る重厚な武家屋敷を改装、2007年秋に根付専門の美術館としてオープンした。高円宮憲仁親王が根付の熱心な収集家だったことから、開館記念式典には高円宮妃久子殿下もご出席になっている。
 約2000点にものぼる"木下コレクション"は、江戸期の古典根付だけでなく、明治・大正から昭和初期にかけての近代根付、さらには昭和20年以降の現代根付、中には外国人の手になる作品に至るまで幅広い範囲に及んでおり、質量ともに群を抜いている。


 季節ごとに期間限定で公開

 「京都 清宗根付館」は、春(4月)、夏(7月)、秋(11月)、冬(2月)と、季節ごとに期間を限ってコレクションを公開している。この7月は現代根付作家として世界的に知られる桜井英之(さくらい ひでゆき)氏の作品を特集している。象牙や木を素材に、人物や動物、花などをテーマとした作品を数多く手掛けており、白生地仕上げのほか、象嵌(ぞうがん)、漆塗り、やしゃ染めなど、多彩な技術を駆使して、精巧でありながら風流な作品に仕上げている。
 根付は、眺めているだけで気分が和んでくる。まして手に取ったりすると、自然に頬がゆるんで、自分でも一つほしくなる。江戸の人びともきっと、小さいくせにどこかのんびりとしたたたずまいの根付に、大いになぐさめられたことだろう。次回の秋季公開は11月1日から30日までを予定している。
(Text/飯田 徹 Photographs/京都 清宗根付館)

 

京都 清宗根付館 夏の一般公開

期 間: 2010年7月1日(木)~7月31日(土)
10:00~17:00(最終入館は16:30まで)
住 所: 京都市中京区壬生賀陽御所町46番1号(壬生寺東側)
電 話: 075-802-7000
入館料: 一般1,200円、中学・高校生600円(消費税込み)
案内図:

京都 清宗根付館 広報担当:(株)情報工房

Tel. 075-353-7714
E-mail netsukekan@info-works.jp
http://www.netsukekan.jp

 

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