「ぼくは100年後の人々にも、
生きているかの如く見える肖像画を描いてみたい」……
これはゴッホが亡くなるひと月ほど前に妹に宛てて書いた手紙。
その願いは見事に叶ったのではないか。


 肉筆画の衝撃

 フィンセント・ファン・ゴッホの作品をご覧になったことがあるだろうか。ポスターや画集、写真などで見慣れたゴッホの作品も、実際にその作品を目の前にすると、めまいがするほど強烈だ。そのタッチや色彩には、一目で尋常ならざるものを感じさせるところがある。たまたまウィーンで開かれていた「ゴッホ展」で見た「自画像」は、じっとこちらを見つめているようで、目が釘付けになり、しばらく動けなかった。まさに「生きているかの如く見える肖像画」なのである。後で図録を見直してみたが、残念ながら印刷物や写真では、絵の具が立ち上がってくるような激しい「タッチ」までは伝わってこなかった。


 ゴッホの創作の秘密に迫る

 ゴッホは確かに、自分の思うような絵を思い通りに描ける並外れた技術をもっていた。しかし、ゴッホはほとんど独学で絵を学んでいる。しかも、画家になると決意したのはようやく27歳になってから。本格的な画業は37歳で亡くなるまでのわずか10年ほどでしかない。してみると、彼の画家としての技量はどこからもたらされたのだろうか。
 今回の「ゴッホ展」は、今年(2010年)がちょうど没後120年ということもあって、その生涯をたどりながら、ゴッホが同時代に活躍した画家たちからどのような影響を受け、どのように自らの創作に生かしていったかを明らかにしようとしている。


 オランダの2大美術館が協力

 そのため、アムステルダムの「ファン・ゴッホ美術館」とオッテルローの「クレラー=ミュラー美術館」の全面的な協力を得ている。
 「ファン・ゴッホ美術館」は、弟テオが所蔵していた油彩画約200点をはじめ、膨大なデッサンとスケッチ、書簡、兄弟が収集したゴーギャンなど同時代の画家の作品や浮世絵のコレクションで知られている。つまり、ゴッホに関してはこれ以上ないという世界最大のコレクションを誇る美術館である。一方の「クレラー=ミュラー美術館」は、オランダの富豪夫妻がピカソやスーラ、モンドリアンなど、近現代の作品を数多く収集した美術館として知られており、中でも約300点(うち油彩は95点)に達するゴッホのコレクションは有名。
 この2大コレクションの全面的な協力を得て、約120点の作品によってファン・ゴッホ芸術の全貌に迫ろうとしている。


 時代を追って画業をたどる

 今回の「ゴッホ展」は、彼の画業の変化を年代順にたどっており、以下のような構成になっている。
 第1章「伝統    ファン・ゴッホに対する最初期の影響」。
 ゴッホが若い頃に親しんだバルビゾン派やフランスの写実主義、オランダのハーグ派の作品など、初期オランダ時代の絵画で構成されている。
 第2章「若き芸術家の誕生」
 画家になることを決意したゴッホが最初に学んだのは「素描」だった。この章では、ゴッホが試したさまざまな素描の技法や遠近法の道具などが紹介されている。
 第3章「色彩理論と人体の研究、ニューネン」
 ニューネンに移住したのは1883年。ゴッホはこのときすでに30歳になっており、本格的に油彩画を描くようになっていた。ドラクロワの色彩理論を学び、人物画に冴えを見せ、いっそう自信を深めていった時代である。

 時代に揉まれ、時代を超えて

 第4章「パリのモダニズム」
 1886年にパリに移ったゴッホは、印象派の画家たちと交流を深めながら、次第に独自の様式を確立していく。この章ではモネやスーラ、ロートレックの作品などと比較しながら、ゴッホの作風の変化を検証する。
 第5章「真のモダンアーティストの誕生、アルル」
 ゴッホが南仏のアルルに居を移したのは1888年2月のこと。このアルルでゴッホ独自の様式を確立し、大胆な構図と鮮やかな色彩をもった「ゴッホの絵」が完成する。この時期で最も重要とされる作品「アルルの寝室」を手がかりに、その部屋が実物大で再現されている。
 第6章「さらなる探求と様式の展開    サン=レミとオーヴェール=シュル=オワーズ」
 ゴッホはアルルで確立した独自の技法に自信を深め、サン=レミやオーヴェール=シュル=オワーズで過ごした最晩年には、自らの色彩感覚や筆遣いのタッチをさらに極めようとしている。「アイリス」はこの時期の代表作の一つ。


 再現された「アルルの寝室」

 今回の「ゴッホ展」の特徴は、ただゴッホの作品を展示するだけでなく、当時の資料を交えながら、その画業の背景を立体的に構築しようとしているところにある。その一つが「アルルの寝室」の再現だ。
 アルルでゴーギャンとの共同生活を始める直前に描かれたこの作品は、ゴッホ自身が弟テオに「アルル時代の最良の作品」と告げていることからも、その自信のほどをうかがわせる。その寝室があった「アルルの黄色い家」の図版とともに、絵にある寝室を再現することで創造の秘密に迫ろうとしている。


 遠近法を正確に描く道具も

 さらに興味深いのが、ゴッホが用いたという「遠近法の枠(パースペクティブ・フレーム)」。これは、長方形の枠に格子状に針金や糸を張ったもので、これと同じものをキャンバスに描いておくことで対象物を正確に写し取ることができた。ゴッホはより明確な焦点を得るために、この枠にさらに2本の対角線を加えたものを使用していたという。今回はそのレプリカが展示される予定で、彼の制作方法の一端をかいま見ることができる。
 さらに、ゴッホがどのようにキャンバスを再利用したか、指紋の跡を意図的に残した理由は何か、など、さまざまな視点からゴッホの画業に迫っている。


 東京の会場は六本木の「国立新美術館」

 東京の会場は黒川紀章氏が設計コンセプトを描いた「国立新美術館」。ガラスカーテンウォールが大波のようにうねる美しい外観と、21.6メートルの天井高を持つ広々としたエントランスロビーのアトリウムが大きな特徴。レストラン、カフェ、ミュージアムショップなども充実しており、今や六本木ヒルズの「森美術館」、東京ミッドタウンの「サントリー美術館」とともに「六本木アート・トライアングル」を形成している。ちなみに、黒川紀章氏はアムステルダムの「ファン・ゴッホ美術館」の新館も設計している(1999年)。「ゴッホ展」は東京展の後、福岡、名古屋へ巡回することになっている。
(Text/飯田 徹、Photographs/©Van Gogh Museum, Amsterdam〈Vincent van Gogh Foundation〉、国立新美術館)




「ゴッホ展」東京展

主  催: 国立新美術館、東京新聞、TBS
会  場: 国立新美術館
東京都港区六本木7-22-2
会  期: 2010年10月1日(金)~12月20日(月)
開館時間: 午前10時〜午後6時、金曜日は午後8時まで
※入館は閉館の30分前まで
休 館 日: 火曜日
※11月23日(火・祝)は開館。翌24日(水)休館
観 覧 料:
当日 前売 団体
一 般 1,500円 1,300円 1,200円
大学生 1,200円 1,000円 900円
高校生 800円 600円 500円
※中学生以下無料
※団体料金は20名以上
※障がい者手帳をご持参の方と付き添いの方1名は無料
※10月9日(土)、10日(日)、11日(月・祝)は高校生無料観覧日(学生証提示が必要)

 

ハローダイヤル 03-5777-8600
展覧会公式サイト http://www.gogh-ten.jp
国立新美術館ホームページ http://www.nact.jp


「ゴッホ展」福岡展

会場:九州国立博物館
会期:2011年1月1日(土・祝)~2月13日(日)
http://www.kyuhaku.jp


「ゴッホ展」名古屋展

会場:名古屋市美術館
会期:2011年2月22日(火)~4月10日(日)
http://www.art-museum.city.nagoya.jp

e+(イープラス)でもチケット販売中。 詳しくはこちら


 

プレゼント

「ゴッホ展」東京展の一般入場券を2名様5組、計10名様にプレゼントいたします。


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