
デパートが「構造不況業種」というのは本当だろうか?
若い男性客を惹きつけている伊勢丹新宿店「メンズ館」を見ると
自ら仕入れる能力を取り戻したデパートがいかに強いかが分かる。
充分「構造好況業種」になり得ているのではないか。

「ぼくは子どものころから両親に連れられてこの伊勢丹へ来るのが楽しみだったのです。その憧れのデパートで働くことが夢だったので、こんなに嬉しいことはありません」と目を輝かすのは伊勢丹新宿店「メンズ館」でメンズアクセサリーのバイヤーを務める飯島芳之氏。「一般にデパートは構造不況業種と言われていますが……」という意地悪な質問にも「それは一般的に百貨店が"お買い場"(伊勢丹では売り場をこう表現する)をお取組み先任せにしてきたからではないでしょうか。お客さまの声に耳を傾けていけば、デパートはまだまだわくわくさせられますよ」とめげる様子は微塵もない。

その自信の裏付けになっているのが「メンズ館」の好業績。地下1階から8階まであるとはいえ、決して大きいとは言えない"お買い場"で日本一のメンズの売上を誇る。何より、これまでデパートにとって主要な顧客と見なされなかった「20〜30代の男性客」を虜(とりこ)にした企画力は大きい。

伊勢丹新宿店「メンズ館」がオープンしたのは2003年9月。それまでは「男の新館」と称していた。「男の新館」は旧東京丸物新宿店の跡地に誕生したもので、1968の開設と、実はかなり昔からある。しかし、内容は本店の売り場を延長しただけで、新味に乏しかった。「メンズ館」になってから、ファッションに敏感な若年層をターゲットにして内容を大胆に変えている。旧来のデパート観からすればカジュアルウェアの品揃えなどはいささか"過激"に見えないこともない。しかし"過激"に見えるのはすでに「おじさん」になっている証拠で、若者たちにとってはごく当たり前のものだ。

老舗のデパートの再生は難しい。それは、時代が大きく変化しているにもかかわらず、かつての成功原則にしがみついて、自分で自分を変えることができなくなっているからだ。創業期にはあったはずの進取の気性も、それが成功してしまうと、今度は失敗を恐れてとたんに保守的になる。つまり、若者にとっての当たり前が"過激"に見えてしまうのだ。気がついたときは"蚊帳の外"というわけだ。
「時代の変化」は、自分の都合だけでものごとを処理している人には感じられない。顧客の都合や切実な願いに誠実に向き合うことでしか、変化は感じ取れないのだ。

そのことを如実に感じさせられたのが「Libera」が度々紹介している革製品ブランド「WILDASWANS」の扱いだった。革製品の愛好家の間では熱狂的なファンを持つとはいえ、有名ブランドとまでは言えない「WILDSWANS」が、この7月から「メンズ館」1階の革小物の"お買い場"で大きく取り上げられることになったのである。
同店で販売の最前線に立つ佐藤 亨(とおる)氏は「最近の若い人は、必ずしもブランド神話を鵜呑みにすることはないようです。実際に自分の手で触ってみて、あれこれいじりながら使い勝手を試して、これなら、と確信を得てからようやく買おうとします。ですから、比較検討しやすいように、ここにはサイフや名刺入れなど、男性向け革小物だけで約30ブランドを取り揃えています」という。佐藤さんはお客さんの反応を注意深く観察しながら、その要望を直接、メーカーに伝えるようにしている。そうした中で「WILDSWANS」が注目されるようになってきたのだ。

バイヤーの立場からすると「商品がすべて」と先の飯島氏は語る。「イメージよりも、モノ自体を通じて良さを伝えるのが私たちの役目」と明快だ。
目下、革小物で最も重用視しているのが「耐久性・堅牢性・使い勝手の良さ」。一般には「安くておしゃれ」なファストファッションが全盛のように言われているが、飯島氏の見るところ「最近の若者は少し違う」という。限られた収入では、安物を使い捨てるより、良いものをできるだけ永く愛用したほうが有利でもある。「成熟した大人の消費感覚」を身に付けた若者は、案外多いようだ。当然、本物志向は強まる。そうした感性に「WILDSWANS」のモノづくりの姿勢がぴったりフィットしたのかもしれない。「ブランドはお客さまによって育てられる」というのはどうも本当のようだ。

もう一つ、最近その傾向を強めているのが「カスタムメイド」だ。かつてはスーツの約8割が既製品のいわゆる「吊るし」だったものが、最近は約6割がセミオーダーメイドなど、何らかの形でカスタム化されているという。カスタム化の波は当然、革小物の世界にも押し寄せている。
そこで「メンズ館」では9月18日(土)、19日(日)、20日(月、敬老の日)の3日間、「WILDSAWANS」のカスタムオーダーを受け付けることにしている。既製品の革の種類や革の色、それに合わせてステッチの色などを変えるだけでも「この世にたった一つ」の自分だけのサイフや名刺入れが出現するわけだ。愛着の度合いはますます強まることだろう。

私たちはつい、「モノ」には命が通っていないと思いがちである。そのため、家でもビルでも使い捨てにして惜しむ気配がない。しかし日本人は元々、身の回りのありとあらゆるものに霊性を見いだし、八百万(やおよろず)の神として敬ってきた。作り手は「モノ」に魂を吹き込み、使い手は作り手の魂を感じながら慈しむように使ってきた。だからこの国の優れた文化は、世界から畏敬の念をもって見られてきたのである。
大切に作られた「モノ」は、大切に扱われる。大切に育てられた人は、人を大切にする。そのせいか「メンズ館」の店員さんの親切な態度は、心の内から湧き出てきているようで驚かされることがある。
優れた「モノ」には、人の気持ちまで変える力がある。刹那的になっている時代には、せめて大切にしたい「モノ」や「人」に囲まれていたいものである……。
(Text/村上 雅敏、Photographs/飯田 健太郎)


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