きびきび走る、レスポンスがいい、加速感が凄い……。
走ることが楽しくなるこんなクルマがあってもいい。


 

 南仏コートダジュールの狭い丘陵地を走っていると、ときおり小型車がこちらのクルマを猛烈なスピードで追い越していくことがある。「あれはラテンの血だろうか……」とよく見ると、運転しているのが銀髪をなびかせた結構なお歳の女性だったりするので、二度ビックリ。フランス人は根っからのスピード好きのようだ。
 そういえばF1グランプリレースはフランスが発祥だし、ル・マン24時間耐久レースもフランスで開催されている。市販車ベースのラリーカーで世界各地を転戦するWRC(World Rally Championship)にしても、フランス語圏のモンテカルロラリーが最古の歴史を誇っている。
 それだけに、プジョーやシトロエン、ルノーといったフランスの自動車メーカー各社は現在でも、さまざまな自動車レースに参加してその技術力を競っている。


 

 そうしたレース経験を市販車に生かしたクルマとして記憶に新しいのがルノー スポール・スピダー(RENAULT Sport Spider)。日本では1997年から99年までのわずか3年間しか販売されなかったが、この時期に相次いで登場した多くのオープン2シーターの中でも出色のスポーツ車だった。その衝撃的なまでのスポーツ志向は、現在でもスパルタンなクルマを愛するマニアの間で熱烈な支持を得ている。
 この系譜を受け継いで新たに登場したのがルノーのルーテシア ルノー・スポール(LUTECIA Renault Sport)。同じルーテシアでも“フレンチ・コンパクト”として人気の高いノーマルのルーテシアとは全くの別物と考えたほうがよさそうだ。ちなみに「LUTECIA」の車名はパリの古い呼び名Lutèce にちなんでいる。男性はLutécien、女性ならLutecienne となり、いわば“パリッ子”。昔の呼び方なので、わが国ならさしずめ“江戸っ子”とでもいったところか。ルノーの意気込みのほどが伝わってくる。



 

 そんなルーテシア ルノー・スポールの魅力を体験するべく、10月16日の発売日を前に、ルノー・ジャポンから広報車両をお借りして、ひと足お先に東京から長野県の黒姫まで走ってみた。ルノー・ジャポンはかつてルノーの100%子会社だったが、2006年から日産トレーディングの一事業部門として販売活動を展開している。
 何より嬉しかったのが、6速のマニュアル・トランスミッション。スポーツ車なら当たり前と思われるかもしれないが、最近のスポーツ“タイプ”のクルマはほとんどがオートマチック。ただ“速い”というだけで、クルマとの一体感まではなかなか得られない。
 ルーテシア ルノー・スポールに乗る醍醐味は、自分の手で確かにクルマを操っているという達成感にある。どのポジションにシフトレバーを入れ、どこまでアクセルを開き、どのようなライン取りでコーナーをトレースしていくか、その一部始終を、コンピュータ任せではなく、自分自身でコントロールしていくところにこのクルマをドライブする歓びがある。


 

 2リッターのエンジンは4気筒ながら、リッター当たり100馬力を超えるチューンがなされた高性能の自然吸気エンジン。コツン、コツンと小気味よくつながるシフトレバーと、トルクフルなミッションがバランスよく噛み合って、急な上り坂のワインディングロードでも勢いよく駆け抜けていく。新型のダンパーを組み込んで適度に固められたサスペンションと、広めのトレッド、長めのホイールベースで安定性に優れたシャーシによって、乗り心地はすこぶるいい。さらに、スポーツコンタクトタイヤの吸い付くようなグリップと相まって、タイトコーナーにさしかかっても少しも不安を感じさせない。制動力の高いブレンボ製のブレーキ(リアのキャリパーのみTRW製)を装着していることも安心感を生む大きな要素となっている。
 タコメーターが3,000回転を超えたあたりから、抑制の利いた力強い咆哮音が聞こえてくる。それがまた、走る気をそそる。どこまでも走りたい欲望にかられ、つい、いつまでも走っていたい気分にさせられる。安心して速く走れるせいか、加速感がダイレクトに伝わってくる。クルマをそのまま鷲掴みにしているような快感が、アクセルペダルを踏むつま先からステアリングを握る指先まで全身を突き抜けていく。気がつくと、トリップメータは2日間で軽く800キロを超えていた。外観こそコンパクトなサイズながら、走りにも居住性にもゆとりがあり、長距離の走行にも充分、耐える。
 クルマを単なる移動手段とお考えなら、イージードライブが可能な楽なクルマのほうがよいだろう。マニュアルは不便で疲れる、とお感じの向きにも、こうしたクルマはすすめられない。しかし、両手両足をフルに使ってクルマを自在に操ることに歓びを感じ、“自分の力”で走ることがたまらなく好き、という方にならこのクルマはおすすめだ。


 

 洗練が慎み深いことと同義だとしたら、ルーテシア ルノー・スポールは実に洗練されたクルマだと思う。エアインテークのフィンも控えめで、フロントフェンダーに開けられたエアアウトレットもぐっと絞られている。ダウンフォースを得るために大げさなエアスポイラーを取り付ける代わりに、F1で培われた技術を生かして、車体の下にエアディフューザーがさりげなく装着されている。一見したところそれほどの凄みは感じさせないが、「やるときにはヤル」という精悍さを秘めている。それでいて価格は299万円(税込み、希望小売価格)。実に手頃と言ってよいのではないか。
 こんなクールなクルマを相棒に、ヒルクライムを楽しみながら信州の鄙びた温泉巡りをするのも悪くない。フランスのハッピーリタイアメントとおぼしきカップルのように、できれば定年を迎えてからも夫婦でスポーツ車を楽しみたい。それでこそ、フレンチシックの“洗練”が生きるというものだ。
(Text/水木良太郎)

 

・ シャシースポール
・ F1タイプエアインテークフィン
・ フロントフェンダーエアアウトレット
・ リアブラックエアディフューザー
・ シルバーステッチ付ダークグレーファブリックシート
・ ダークカーボン内装
・ シルバーシートベルト&ステッチ
・ イエローセンターポイントステッチ
・ ルノー・スポール専用イエローパネルタコメーター
・ スピードリミッター&クルーズコントロール
・ 17インチアロイホイール
・ AUX端子
・ 8エアバッグシステム
・ ESP(横滑り防止装置)

 

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