空き巣に入られた悔しさは体験した人にしか分からない。
そして、大半の人は自分だけは大丈夫だと思っている。
住まいは「生命と財産を守るための金庫」だというのに……。


 安全と水は本当に「タダ」か?

 草笛光子さんと太川陽介さんの「二人舞台」で好評を博した「6週間のダンスレッスン」。その冒頭に、太川さん扮するダンス教師が、草笛さん扮する未亡人の住むフロリダの高層マンションへやってくるシーンがある。
 ピープホール(覗き穴)から訪問者をじっくり見定めてようやくカギを開けようとする草笛さん、その数、実に4個。観客はその多さに「ワッ」とどよめくが、これがごく普通のアメリカの暮らしというのだから驚くのも無理はない。ニューヨークのちょっと治安の怪しいところならドアガードにドアチェーンは当たり前で、さらにドアをぶち破られないように真ん中に太い鉄パイプを取り付けた「センターロック」などという代物まである。ドアは侵入者をいつでも閉め出せるように「内開き」に取り付けるのが普通だが、わが国では玄関に履物を置くせいか「外開き」にする家庭が多い。
 こうした生活習慣が「平和ボケ」とみなされ、日本人は外国人から「安全と水はタダだと思っている」ように見られているフシがある。しかし最近は、水はミネラルウォーターを買って飲むようになっているし、かつてのような安全はもはや「神話」に近い。


 6月9日は「ロックの日」

 錠前のトップメーカー、美和ロックによると「6月9日はロックの日」だとかで、さまざまなイベントを展開している。
 その一つが「防犯ママ大学」。安全生活アドバイザーの佐伯幸子さんを講師に「ママたちに伝えたい、空き巣を防ぐ心得」や、親子でカギの重要性を学ぶ「ロック紙芝居」などを上演して防犯意識の普及に努めている。
 そのネライを美和ロック顧問の石倉義朗氏は「空き巣に入られた悔しさは、当人でなければ分からない。その悔しさを味わう前に備えてほしいから」だという。
 警視庁刑事部捜査第三課で通算26年間にわたって窃盗事件の捜査に当たってきた防犯アドバイザーの富田俊彦氏によると、2009年の「住宅侵入窃盗事件」は85,228件で、「1日当たり234件も発生している」という。なかでも、玄関など表の出入り口から堂々と侵入する空き巣は16,973件もあり、そのうち63.9%は何と「無締(むじまり)」での侵入。つまり泥棒は、施錠されていないドアから平然と侵入していることになる。日本人が「平和ボケ」と言われるゆえんだが、ちょっとの間だからと油断して戸締まりをしないひとは、意外に多いのである。


 壊れにくい錠前がいい錠前

 こうした住居侵入の手口で最も多いのが「サムターン回し」と「ドアのこじ破り」、それに「カギ穴壊し」である。「サムターン回し」というのは、郵便受けから手を入れたりドリルでドアに穴を開けたりして内側のつまみ(サムターン)を回して侵入するもの。また、「ドアのこじ破り」はバールのようなものをドアのスキマに差し込んで強引にこじ開けるもの。「カギ穴壊し」は工具でシリンダー自体を破壊し、カギの内部を操作して解錠するもの。一時騒がれた、カギ穴に特殊な工具を差し込んで解錠する「ピッキング」は、防犯意識が普及してカギをより複雑なものに交換する家庭が増えたせいか0.5%とかなり少なくなっている。その分、カギを壊されるケースは増えているともいえる。 
 富田氏によると、防犯の決め手は窃盗犯にとって「安全・容易・確実」と思わせる要素を徹底的につぶすことだという。つまり「泥棒が隠れるのに都合の良いところをなくし、ドアやカギを壊すのが面倒な状態」を意識的につくっておくこと。そのためには防犯性能の高い製品(CP製品)を選び、既存の錠前のほかに「補助錠」を付ける「1ドア2ロック」を奨励している。


 CP製品に注目

 CP(Crime Prevention=防犯)製品というのは、警察庁、国土交通省、経済産業省の関連3省庁と建物部品関連の民間団体からなる「官民合同会議」のテストによって防犯性能が高いと認められた製品のこと。
 性能の目安は、とにかく「壊れにくい」こと。たとえば、耐ピッキング性能なら、ピッキングを成功させるのに少なくとも10分以上はかかり、カギ穴を壊すのにも10分以上、サムターン回しやカム送り、こじ破りには、それぞれ5分以上かかることが条件だ。こうした簡単に破られそうもないカギを取り付けておくことで、備えは万全であることを誇示し、泥棒のヤル気を削ぐのである。
 佐伯幸子さんも「家を留守にするときは、人の気配を感じさせる工夫をするよりも、戸締まりが万全であることを示すことが大事。しっかり雨戸を閉めて、泥棒に"これは手強い"と思わせることが大切」という。


 空き巣のつけ込むスキをつくらない

 石倉氏によると「泥棒の心理からすれば、失敗するのがなにより怖い」わけで、それはつまり、捕まってしまうこと。それには「家にスキを作らないことが大切」と強調する。
 被害状況を調査している佐伯さんによると「一戸建ての住宅で、昼間の12時から午後6時ぐらいまでの間に、カギが1つだけの1階の玄関・勝手口・窓などから入られ、平均5万円以内の被害」が典型的なケースだとか。しかし、中には高層マンションで被害に合ったり、被害額が50~100万円だったりというケースもあるので、典型例がすべてというわけではない(調査結果の一部を右の図表に掲載)。
 注目したいのは、空き巣に入られてしまった後の「恐怖」感。「もしも犯人と鉢合わせしていたら……」と考えるだけで恐ろしくなるのは当然のことだろう。空き巣に入られたことで、引っ越すことまで考えた被害者は、決して少なくないのである。また、ふだん使わないクレジットカードを家に置いておくのもリスクが大きいことの一つ。愛用のカードだけを身につけておくようにしたい。


 住まいは金庫

 ところで、カギを一つ増やしたぐらいで、安全は万全なものになるのだろうか。「少なくとも、防犯意識はかなり高まるわけですから、万全とはいかないまでも、リスクはぐんと低くなるはずです」と佐伯さん。何より「精神的な安心感が大きい」のだそうだ。そのために心がけておきたいのが次の3点。

a 「住まいは金庫」と考えること。
大切な家族の命と財産を守る容れ物なのだから、家は金庫と同じ。金庫にカギを掛けておかないひとはいないだろう。
b 「安全経費」を計上する。
「安全」は決してタダで手に入るものではない。安全を守るためには、それ相当の維持費がかかる。安全のための経費は「必要経費」と考えること。
c 家族には「安全作法」を教える。
空き巣は盗みに入りやすい家をひそかに「物色」している。空き巣の常習犯は必ず「下見」をしてから侵入するという。ほんのわずかな時間でも、留守にするときは必ずカギを掛ける。そんなささいな「用心の積み重ね」が被害を食い止めることになる。


 植木鉢の下は禁物

 おっと、もう一つ。持って歩くのは面倒だからと、カギ(キー)を玄関の植木鉢やマットの下、門扉の郵便受けなどに隠しているお宅はないだろうか。「家族だけの秘密」は、「物色」している空き巣にとっくに見破られているかもしれない。実は、玄関回りに隠してある合鍵を見つけられて侵入されているケースはかなり多い(13.9%)。佐伯さんも「これは絶対に止めたほうがよい」と忠告している。面倒でも、カギは家族それぞれ自分で持つしかない。
 しかも意外なことに、ご近所の人から被害にあったというケースは決して少なくない。残念ながら「3ドア・ノーロック」でも済んだ時代は、遠い昔のことなのだ。いずれわが国も「6週間のダンスレッスン」で見たように、「1ドア4ロック」の国になるのだろうか……。
(Text/村上 雅敏 Data & Photographs/美和ロック)


 

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